大判例

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東京高等裁判所 平成5年(ネ)3061号 判決

控訴人

山雄建設株式会社

右代表者代表取締役

成川明子

右訴訟代理人弁護士

金子和義

被控訴人

梅澤了

島村建

島村美智子

尾櫃玉枝

石渡敏明

右五名訴訟代理人弁護士

田中重仁

島田浩孝

主文

一  本件控訴をいずれも棄却する。

二  被控訴人島村建及び同島村美智子は、控訴人に対し、同被控訴人ら宅のブロック塀に取り付けている縦0.92メートル、横2.50メートルの「不当訴訟勝利ご支援に感謝 第一住宅坂戸団地自治会」と記載してある垂幕を撤去せよ。

三  被控訴人尾櫃玉枝は、控訴人に対し、同被控訴人宅の生垣(竹垣)に取り付けている縦0.92メートル、横2.50メートルの「不当訴訟勝利ご支援に感謝 第一住宅坂戸団地自治会」と記載してある垂幕を撤去せよ。

四  被控訴人石渡敏明は、控訴人に対し、同被控訴人宅のブロック塀に取り付けている縦0.92メートル、横2.50メートルの「不当訴訟勝利ご支援に感謝 第一住宅坂戸団地自治会」と記載してある垂幕及び「山雄建設(本社・東松山市)よ 横断幕かかげてなぜ裁判か」と記載してある看板を撤去せよ。

五  当審における訴訟費用は、これを五分し、その一を被控訴人島村建、同島村美智子、同尾櫃玉枝及び同石渡敏明の負担とし、その余を控訴人の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  控訴の趣旨

1  本訴請求についての原判決を取り消す。

2  被控訴人らは、控訴人に対し、各自金八〇二万五二〇四円及びこれに対する昭和六三年一一月九日(ただし、被控訴人石渡敏明は同月一〇日)から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

3  主文第二ないし第四項と同旨(いずれも当審において交換的変更をした請求)

4  被控訴人らは、控訴人に対し、左記のとおりの謝罪広告を第一住宅坂戸団地自治会発行の「自治会だより」の紙面第一面に縦一二センチメートル、横二〇センチメートルにわたって、見出し部分及び被控訴人らの氏名は三号活字、本文は三号偏平活字でもって印刷して一回掲載せよ。

私共は、山雄建設株式会社の四階建ビル建設の反対運動につき、山雄建設株式会社が悪徳業者であるかの様な印象を与えかねない内容の「山雄建設は第一住宅から出ていけ」「山雄建設は謝罪せよ」等の文句の横断幕や立看板等を掲示し、更に「山雄建設もそうした無秩序開発を狙うものの一人だ」と書いたビラを配布致しましたが、右横断幕、看板等を掲示しビラを配布したことにより、山雄建設株式会社の名誉を著しく毀損し多大のご迷惑をおかけ致しました。

よって、ここに深くお詫び申し上げます。

梅澤了

石渡敏明

島村建

島村美智子

尾櫃玉枝

5  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

6  第2、第3項につき仮執行の宣言

二  控訴の趣旨に対する答弁

1  本件控訴及び控訴人が当審において変更した請求を棄却する。

2  控訴費用は控訴人の負担とする。

第二  当事者の主張

当事者の主張は、次のとおり改めるほかは、原判決四枚目裏三行目から同一二枚目裏四行目までの事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

一  原判決七枚目裏七行目の次に行を改めて次のとおり加える。

「また、被控訴人梅澤了は、昭和六三年四月六日の要綱による標識設置の三か月以上も前に、本件建物の建築計画の情報を市会議員として坂戸市から入手して、その情報を他の被控訴人ら近隣住民に流布し、また、他の被控訴人らから依頼を受け、坂戸市に対し、市会議員の地位を利用して、成立の見込みのない建築協定を理由に、本件建物につき建築確認をしないように政治的圧力をかけ、建築事業報告書を受理させないようにして建築確認をストップさせたうえ、同市市長をして、本件土地があたかも建築協定が成立しうる地域内に存在するとの意見書を佐藤建築設計士作成の建築事業報告書に添付して埼玉県に送付させ、同県飯能土木事務所に建築反対を陳情した。」

二  同九枚目裏六行目の次に行を改めて次のとおり加える。

「10 被控訴人らは、原判決の言渡後、従前の垂幕及び看板(以下「旧垂幕等」という。)を取り外して、自治会の支援により、新たに主文第二ないし第四項記載の垂幕を殊更に不特定多数の者の目に触れるように本件建物周辺の公道沿いの被控訴人ら肩書地の各住居に掲示したほか、被控訴人石渡敏明は、主文第四項記載の内容の看板を以前から継続して掲示している。これらの垂幕等は、事情を知らない不特定多数の第三者に対し、控訴人が不当な裁判をしているのではないかとの認識又は印象を抱かせるものであって、建築、不動産業者である控訴人の社会的評価を低下させる内容、体裁のものであるから、控訴人は、被控訴人らに対し、この侵害状態を排除するための必要かつ効果的な現状回復処分として、垂幕と看板の撤去を求める。」

三  同枚目裏七行目冒頭の「10」を「11」と、同一○行目から一一行目にかけての「請求の趣旨第2ないし4項記載の垂幕・立看板等一切の掲示物の撤去」を「本判決主文第二ないし第四項記載の垂幕、看板等一切の掲示物の撤去」とそれぞれ改める。

四  同一〇枚目裏一一行目の「現に掲示されている」を「掲示されていた」と改める。

五  同一一枚目表四行目を次のとおり改める。

「6 同9の主張は争う。

7 同10のうち、主文第二ないし第四項記載の各被控訴人らが同記載の垂幕、看板を掲示していることは認める。」

六  同枚目表五行目冒頭の「7」を「8」と改める。

第三  証拠

証拠関係は、原審及び当審記録中の証拠に関する各目録に記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  損害賠償請求及び謝罪公告掲示請求について

1  次のとおり改めるほかは、原判決一三枚目裏四行目から同二○枚目裏三行目の「できない。」までの理由説示のとおりであるから、これを引用する。

(一)  原判決一四枚目裏二行目の「被告梅澤本人のの供述」を「被控訴人梅澤本人の供述」と、同一六枚目表九行目の「島村健」を「島村建」とそれぞれ改める。

(二)  同一七枚目裏五行目の次に行を改めて次のとおり加える。

「控訴人は、被控訴人梅澤了が、要綱による標識設置の三か月以上も前に、本件建物の建築計画の情報を市会議員として坂戸市から入手して、その情報を他の被控訴人ら近隣住民に流布したり、坂戸市に対し、市会議員の地位を利用して、本件建物につき建築確認をしないように政治的圧力をかけて建築確認をストップさせるなどした旨主張し、原審証人成川実の証言中には、一部これに副うものがある。しかし、同証言は多分に憶測に基づくものであって信用性に乏しいものであるうえ、被控訴人梅沢了の原審における本人尋問の結果に照らし、措信することができない。他に、控訴人の右主張を認めるに足りる的確な証拠はない。」

(三)  同枚目裏八行目の「現に掲示されている」、同一八枚目表二行目の「掲示されている」及び同一九枚目裏一〇行目から一一行目にかけての「掲示されたり、現在掲示されている」をいずれも「掲示されていた」と改める。

2  したがって、その余の点について判断するまでもなく、控訴人の被控訴人らに対する損害賠償請求及び謝罪公告の掲示の請求はいずれも理由がない。

二  垂幕等の撤去請求(当審において交換的変更をした請求)について

1  請求原因10のうち、主文第二ないし第四項記載の各被控訴人らが同記載の垂幕及び看板を掲示していることは当事者間に争いがない。

2  右1の事実に、成立に争いのない甲第九五号証の七ないし一〇及び弁論の全趣旨を総合すれば、被控訴人島村建、同島村美智子、同尾櫃玉枝及び同石渡敏明が現に掲示している垂幕には、「不当訴訟勝利ご支援に感謝」との記載のなされていること、右垂幕等は、本件建物周辺の公道沿いに不特定多数の者の目に触れる形で、第一審判決直後から数箇月もの長期間継続して掲示されていることが認められる。

ところで、垂幕等の掲示は、その内容が相手方を誹謗中傷する内容のものであったり、その掲示の態様、方法、目的が相当性を欠くものである場合には、違法性を帯びることがあるというべきである。

これを本件についてみるに、右垂幕等は本件建物のすぐそばにこれを取り囲む形で掲示されていること、被控訴人石渡敏明が「山雄建設(本社・東松山市〉よ 横断幕かかげてなぜ裁判か」との記載のある看板を掲示していること等からすると、右垂幕等の掲示は控訴人が本件訴訟を提起したことに関する意思表示の手段としてなされたものと容易に認められる。右垂幕における「不当訴訟」との記載は控訴人の本訴提起が違法なものであるとの趣旨に解されるが、本件訴訟については、原裁判所において控訴人の本訴請求は棄却されているが、被控訴人らの反訴請求も控訴人の本訴の提起追行が違法とはいえないとして棄却されているから、「不当訴訟」の文言は妥当性を欠くものである。しかも、右垂幕等は、前記のとおり、本件建物周辺の公道沿いに不特定多数の者の目に触れる形で、第一審判決直後から数箇月もの長期間継続して掲示されていることからすると、単に訴訟の結果を被控訴人らの支援者に一時的に報告するにとどまるものではなく、不特定多数の第三者に対し、控訴人が不当な訴訟を行ったとの印象を抱かせる目的あるいは控訴人に対し心理的圧力を加える目的でなされているものというべきである。そうすると、右垂幕及び看板の掲示は、一体として、その内容、目的、態様等からみて、建築、不動産業者である控訴人の社会的評価を低下させ、その名誉を毀損するものであるから、控訴人と被控訴人らとの間の本件訴訟をめぐる経緯を考慮しても、相当な意思表示としての限度を超えるものであって違法性を帯びるものというべきである。

この違法状態は垂幕等によって継続的に表示されているものであるから、これを排除するための原状回復の方法としては、その撤去を命じるのが相当である。

三  よって、本件控訴はいずれも理由がないからこれを棄却し、控訴人の被控訴人梅澤了を除く被控訴人らに対する垂幕等の撤去を求める請求(当審において交換的変更をした請求)は理由があるからこれを認容することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法、九五条、八九条、九三条を適用し、仮執行の宣言は相当でないからこれを付さないこととし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官谷澤忠弘 裁判官松田清 裁判官今泉秀和)

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